若手バンカー社会派への道

28歳地方銀行員が、斜陽産業の中で自分の価値を磨くための雑記帳。

【書評】10年後の仕事図鑑 堀江貴文,落合陽一 著

地方銀行は斜陽産業と言われている。

長引く低金利環境が収益を圧迫しているだけでなく、フィンテック企業の台頭、地域の人口減少、企業の後継者不在、硬直した組織による意思決定の遅さなど、ネガティブ要因は挙げればきりがない。そのあたりは改めて記事にするとして、そういうわけなのでいち銀行員の私としても、「職業」「仕事」「収入」というワードには敏感にならざるを得ないのである。

10年後の仕事図鑑

10年後の仕事図鑑

 

 この本を出張の合間のネカフェで少し読んで面白かったのでメルカリで購入した。480円。作者さんには申し訳ないけどいい時代になったものです。

本著の主張としては

  1. 自分自身に価値をつけてフォロワーを獲得すれば、十分な収入が得られるし、その方法は今はいくらでもある。(YouTube,VALU,Polca)
  2. 自分の好きなことに没頭し、100人に1人くらいの希少さの人間になろう。そんな分野を3つ持てば100×100×100で100万人に1人の人間になれる。
  3. イヤイヤやらされる仕事こそはAIに置き換えられるのだから、従来の受け身の労働者体質のままでいてはそれこそ職を失う。
  4. お金を調達できる人になろう。そのためには信用がなくてはならない。信用さえあれば、貯金なんてしなくてもいつでもお金を調達できる。信用を積むために使うお金は惜しむべきでない。
  5. 日本の教育システムは、激動の社会を生き抜く力を教えていない。幼い頃から先進的な考えを持つ人達との関係を大事にし、常に新しい刺激に身を置こう。教育の無償化も日本の成長には意味がない。やる気のない人間を大学に行かせても、市場から淘汰されるべき数々の大学を温存させるだけだ。
  6. 「遊ぶ」「学ぶ」「働く」の境界が無くなりつつある。好きで没頭できることは自然と学ぶし、市場で貴重になるので収益も上がる。

このようなところ。

堀江さんと落合さんという今や日本を代表する自由な知識人の二人が言うことなので、「そりゃあなたたちだからそんなことが言えるんだよ」というツッコミもしたくなってしまうが、そんな事を言っても仕方がないので、彼らが提示してくれたテーマについて、現実的な解を考えてみよう。

私は銀行員なので、モノは売らない。法人融資を担当していたときは取引先を回って、雑談の中で資金需要を嗅ぎつけて、融資につなげる、ついでに預かり資産とかビジネスマッチングとか事業承継といったネタを探して、案件にするということをしていた。なのでスキルは属人的になりやすいし、一見商売と直接関係ない時事ネタとか歴史ネタとか地元ネタが切り口になることもよくあった。

そんな銀行員が、堀江さんたちが言う生き方を目指すとしたら、どのような形があるだろうか。ヒントになるのが、書中で落合さんが言っていた、「労働者=経営者」という話だ。ちゃんとした銀行員というものは自分の取引先の融資残高や株主構成、ビジネスモデル、資金需要を把握し、適切な時期に適切な提案ができるものだ。これは各支店の一定のエリアの顧客を全て管掌しているという点で経営者思考が不可欠となる。自分の担当エリアにおけるB/SとP/Lを大まかに頭の中に描ける必要があるのだ。そこをしっかりできれば、会社側としてもいち労働者ではなく、独立採算の個人事業主のような扱いで重宝せざるを得ないだろう。

ここで最も大きな問題点は、現状の銀行の給与体系が、各社員に対して経営者思考をもたせるような物になっていないということだ。具体的にはインセンティブ報酬の思考があまりにも欠如している。営業担当の銀行員は老若男女問わず数字のノルマを課せられる。支店や上司によってはかなりプレッシャーを掛けられるが、達成した場合のモチベーションは、賞与における査定の上昇(手取りにして数万円~十数万円)、次の異動で昇進や勤務地の希望が叶う可能性が上がることなどだ。人々の価値観が多様化した今、特定の組織内での昇進や数万円程度のボーナスのために、必死に考えて働くだろうか?各社員が主体的に、経営者思考を持って働いてもらうために、給与のインセンティブ体系を整備するべきだし、労働組合もそれを認めるべきである。だって事務職員なんて間違いなくAIに置換されるんだから、その分人件費の総額は減るでしょう。その節約分だけでもインセンティブに回せば、最低ラインは変えずに、優秀な社員のモチベーションを高めることができます。そうなった社員は、仕事を好きになるだろうし、銀行から独立してもFPとかコンサルタントとしてやっていける人材になるだろう。それを優秀な人材の流出と見るか、自社の息がかかったコンサルタントが各取引先に入り込んで有利に働いてくれると見るか、現代はオープンイノベーションの優位性が叫ばれているので、後者が正しいのではないでしょうか。

ちょっと話はズレるけども、メガバンクで副業解禁の動きがあるのも、早く地方銀行に波及してほしいと思う。最初のうちはきっと上司に遠慮しておおっぴらに副業できないと思うけど、そのうち尖った奴が本業よりも稼ぐようになって、そのノウハウを本業にも生かして・・・となっていけば、まさに経営者思考。事業多角化によるシナジー効果を考えて、副業を選ぶようになる。要約の2のように、複数の要素で強みのある人間はより重宝されますよね。そのためには銀行にありがちな無駄な作業・報告物は無くして、副業に集中できる環境を作ってあげましょう。

とにかく、銀行でもなんでも、社員に対して労働者思考からの脱却を促すためには給与体系のインセンティブ化と、副業解禁は必須だと思います。